vol.02
自然の中の遊び場が人生を豊かにする!
山の中に楽園をつくった野外生活の達人 古閑勝己さん
佐賀県のほぼ中央に位置する多久市は、四方を山に囲まれた風光明媚な地。 その南部にある南多久町に、詩人サムエル・ウルマンが書いた『青春』を実践している人がいる。 「Youth is not a time of life, it is a state of mind.(青春とは人生のある期間ではなく心の持ち方をいう)」。 夢と情熱を胸に、山の中に小屋を建て、畑を耕し、自然とともに生きる、野外生活の達人・古閑勝己さんだ。 今回ご紹介する偏愛紀行は、古閑さんがゼロから作り上げた食育体験農園「こがベリー園」での『自然農園で遊ぼう&田舎飯作り体験!』。 それは楽しい!おいしい!だけでなく、元気も充電できる、とっておきの時間だった。
聞き手:高野正通(偏愛紀行編集部)
県道35号多久江北線沿いにある案内板。道の細さから、穴場感がプンプン匂う…
偏集部・高野
むむ、本当にこの道で合ってるのかな...。
家もなにもない山の中を進むこと少々
偏集部・高野
あ、何か入口らしき物を発見。古閑さーん!
古閑さん
おっ、いらっしゃい。
偏集部・高野
わっ!ハンモック!? 野外ライフを満喫されてますね。今日はよろしくお願いします。
外国映画のワンシーンみたい!絵に描いたように素敵なセカンドライフ!!
古閑勝己さん
40歳で「セカンドライフのための準備を始めよう」と決心し、住宅設備会社に勤めながら、手に入れた山の中の土地をコツコツと開墾。50種以上の植物を植え、小屋を建て、かまどを作り、ハンモックを備え…と自ら手がけ、夢だった自然の中の遊び場「こがベリー園」が完成。食育体験農園として観光客を受け入れ、自然の素晴らしさを伝えている。
30年以上かけて作った大人の隠れ家
偏集部・高野
山の中の秘密基地みたいですね。「ベリー園」と聞いていたので、ビニールハウスがたくさんある観光農園を想像していました。
古閑さん
以前はもっとビニールハウスがありましたが、大雪の時につぶれちゃって。まあ、自然と一緒に生きてるから仕方ないですよね。いろいろ育てた方が楽しいから、ベリーだけでなく、西洋野菜や江戸時代の野菜、果物、ハーブ、きのこ、ナッツ類など、いろんなものを育ててるんですよ。
偏集部・高野
たくさんありますね!
古閑さん
50種類以上はあると思います。
整備された観光農園というより、野性味あふれる隠れ家という印象の園内
偏集部・高野
何十年もかけてこの場所をひとりでつくられたそうですね。自然への偏愛ぶりに脱帽です。
古閑さん
もともとは自分のためにつくった場所なんですよ。星を観るのが好きで、お酒を飲みながらゆっくりできる場所がほしくて、40歳の時に一念発起。会社勤めをしながら、休日にコツコツと手をかけて、ここまで来ました。
偏集部・高野
古閑さんの隠れ家なんですね。
古閑さん
自宅はここから徒歩圏内なのですが、毎日朝10時から夕方4時までは、ここで過ごしています。緑の中でのんびり本を読んだり、小屋の中でレコードを聴いたり。最高の贅沢ですよ!
1日のほとんどを農園で過ごすという古閑さん。抱っこしているのは看板猫のチビタ
自分で建てたという小屋の中にはオーディオ機器が。お気に入りのレコードを大音量でかけてゆっくり過ごすのが、古閑さんの至福の時間
偏集部・高野
想いがいっぱい詰まった場所で、いろんな自然体験ができるのですね。
古閑さん
摘み取り体験や農業体験、野外クッキングなどを楽しんでいただいてます。
偏集部・高野
自分で収穫して、料理して食べるというわけですね。
いざ自給自足。園内で食材調達、道具も手作り!
古閑さん
季節によって収穫できるものは異なるので、内容はその時次第。今日は竹筒ごはん、椎茸の炊き込みごはん、蒸し野菜、ポテトフライ、シナモンティーを作りましょう!
偏集部・高野
え、そんなにたくさん!?
古閑さん
まずは竹筒ごはんから。のこぎりで竹を切るところからやりますよ。
偏集部・高野
道具を作るところから体験するんですね。
今回一緒に旅をした中国からの留学生・シンさんと一緒にチャレンジ!この竹も、もちろん山から切り出したもの
古閑さん
お、上手ですねえ!次はお米を入れる穴を空けましょう。
ノミを使って竹に穴を開ける。「僕の指を叩かないようにね。前に1度あったから」と笑う古閑さん
ごはんを炊く竹筒が完成。これに研いだお米を入れ、準備完了!
古閑さん
次は、食材の調達。探検気分で園内を探してきてください。まずは、炊き込みご飯用の椎茸。はい、いってらっしゃい。
偏集部・高野
古閑さんの説明だと、こっちかな…あ、発見!では、収穫します!
椎茸の栽培コーナー。どれも肉厚で立派!
古閑さん
いいのが採れましたね。次はイタリアの菜の花“レッチェナタリア”。写真を参考に、見つけてきてください。ビニールハウスを突き抜けて、右の方にありますよ。
写真をヒントに、珍しい食材探しへゴー!
偏集部・高野
説明がざっくりですね(笑)。じゃあ、行ってきます!…こっちかなー。あ、何か発見!えっ、テント!?中に、こたつ!?
ここは古閑さんが寝泊まりするところらしい。キャンプ体験の時は、お客さんの宿泊スペースに
古閑さん
ありましたかー?
偏集部・高野
いや、なかなか見つからないです。
古閑さん
あ、そこじゃないよ。そこから12時の方向に行って、さらに3時の方向に進んでください。
偏集部・高野
こっちかなー。あ!あった!!こうやって探すのって楽しいですね。宝探し気分。
自分が食べるものを自分で見つけて収穫する、喜びいっぱいの時間
古閑さん
じゃあ、採ってきた椎茸をスライスしましょう。竹筒にごはんと調味料、椎茸を入れたら、準備完了です。
ワイルドな野外飯。出来上がりが楽しみ!
古閑さん
まだまだありますよ。次はポテトフライ。今日はオシャレにローズポテトにしましょう。スライスしたポテトを重ねて並べて、くるっと巻いてください。
この日使ったポテトは、農園育ちの珍しい品種。甘み豊かなキタアカリ[左]と、ポリフェノールいっぱいのシャドウクイーン[右]
とっても簡単。くるくると巻くだけでバラの形に
古閑さん
では、油で揚げて、オーブンで少し焼いて、完成です!
偏集部・高野
オーブンまであるなんて、充実の設備ですね。
味はもちろん、盛り付けにもこだわるのが古閑さん流野外飯。「若い人が来たら、新しいものやオシャレなものも取り入れないとね」(笑)と古閑さん
古閑さん
では、そろそろ火を起こしましょう。薪割りをお願いします。
偏集部・高野
初体験です!楽しみにしてた薪割り、いきます!
薪割り体験は大人から子どもまで大人気とか
古閑さん
次は落ち葉を敷いて火を付けて、薪をくべましょう。竹筒で息を吹き込んで、火力を上げてくださいね。
偏集部・高野
こうやって火を起こすのにも憧れてました。ちょっと煙いけど、楽しい!
かまども古閑さんの手作り
古閑さん
竹って、いろんな道具になるから便利でしょ。その辺に生えているんだけど、みんな邪魔者扱い。でも、僕にとったらお宝。いろいろ活用できるし、これでごはんを炊いたら、竹のエキスが混ざってとってもおいしい!でもね、一番おいしいのは日本酒。竹に入れて、火にかけて熱燗にするんです。おいしいですよー。年に3回ぐらいは奥に張ってるテントに泊まるんですけど、雪がちらちら舞うなか、チビタと一緒にのんびりしながら日本酒を飲む。もう、最高(笑)。
偏集部・高野
うらやましい!次は夜に来ます!!
胸アツ!古閑さんの生き方指南
古閑さん
「多久には何もない」って言う人がいるけど、僕に言わせりゃ「何もないのがイイトコロ」。物がありすぎることが良いことだとは思いません。ここは、 時計の秒針の音がよく聞こえるぐらい静か。それって、何か良いと思いませんか?
多久の魅力を熱く語る古閑さん
偏集部・高野
秒針の音…最近聞いた覚えがないですね。それぐらい静かで、ゆっくりできるってことなんでしょうね。ごはんが炊けるまで、ちょっとお話を聞いていいですか。古閑さんって、どこで野外飯の知識を学んだのですか?
古閑さん
独学。料理は昔から好きでしたね。自宅で鯉のお造りとかも作っていたんですよ。栽培に関しても、以前に園芸業界に携わっていたので、興味と知識はありました。「これを育てたら面白そう!」と、毎年新しい種類を植え続けてたら、こんなふうになったんです(笑)。
偏集部・高野
好きなことをやっていたら、今の形になったってことですね。
古閑さん
40歳の時に、充実したセカンドライフのために、夢の場所を作ることを決めました。勤め先では定年の延長もできたんだけど、「夢を追いかけますから」と断りました。コツコツ準備をして、10年前にここを開園。今年で74歳ですが、まだまだ夢の途中、青春真っ只中です。
偏集部・高野
「青春とは人生のある期間ではなく心の持ち方をいう」ですね。カッコいい!
感動と発見の連続、野外飯
古閑さん
おっと、そろそろごはんが炊けそう。じゃ、食事の準備を続けましょう。
ジュージュー音をたてる竹筒ごはん。炊きあがりが待ち遠しい!
古閑さん
蒸し野菜はできたよー。
竹の中には、農園で採れた人参、じゃがいもが
古閑さん
鶏肉の蒸し焼きもOK!
偏集部・高野
うぁ!良い香り。中に入ってるのはローリエですね。ローリエもひょっとして…。
古閑さん
ええ、ここに生えてますよ(笑)。鶏肉とローリエと塩胡椒だけで、本当においしい。
火の中に入れていたホイルの中から、ジューシーな鶏の蒸し焼きが。夏はアルミホイルではなくバナナの葉っぱで蒸し焼きを作るそう
古閑さん
よし、ごはんを開けよう!ナタで割りますよ。
偏集部・高野
シンさん、やってみよう!
ナタと金槌を使って竹を割っていき…
パカッ!遂にごはんと対面!!
見て!ごはんがツッヤツヤ
古閑さん
最後はお茶の準備。今日はシナモンティーにしましょう。あっちにシナモンの木があるので、葉っぱを10枚採ってきてください。
偏集部・高野
葉っぱでお茶を作るんですね。
古閑さん
普通は木の皮を使いますよね。でも、それだと木を傷めますから、葉っぱで作ります。葉っぱを折って、香ってみてください。
偏集部・高野
うゎ!良い香り〜。
古閑さん
シナモンの葉は血糖値を下げる効果があるそう。実際に僕も下がりました。
初体験だったシナモンの葉っぱ摘み
古閑さん
葉っぱをハサミで切って、お湯を注いだらシナモンティーのできあがりです。ちなみに、ここにはたくさんのハーブも植えているので、常時20〜30種類のハーブティーも楽しめるんですよ。
偏集部・高野
すごい!専門店みたいですね。
ビックリするほど簡単。味が楽しみ!
古閑さん
それではテーブルに並べて…さあ、ごはんにしましょう。
偏集部・高野
いただきます!
園内のテントで、野外飯の実食スタート!
偏集部・高野
あ、すみません!あっちの野外テーブルで食べてもいいですか?せっかくなので、とことんアウトドアを満喫させてください。
偏集部・高野
では、改めまして…いただきます!
まさに山の中での野外飯。さて、そのお味は…
偏集部・高野
(もぐもぐもぐ)…うますぎる!最高です。竹筒で炊いたごはんは、もっちもち。とってもジューシーで、ほんのりと清々しい風味を感じますね。蒸し野菜は、ほっくほくで濃厚な味わい。蒸し鶏も香りが良くて肉汁たっぷり…幸せ。
自分たちで収穫して、準備して、調理したごはんのおいしさは感動モノ
自給自足で作ったこの日の食事。シンプルだけど、とっても贅沢な気持ちに
古閑さん
でしょ(笑)。その時に収穫できる食材で作るから、楽しくておいしいんですよ。そうだ!これも食べてみて。自家製の柚子胡椒。何につけて食べてもおいしいですよ。
古閑さんお手製の柚子胡椒。農園で採れた柚子をたっぷり使用
偏集部・高野
キレイな色!じゃあ、野菜につけていただきます。うん、おいしい!柚子の香りが鮮烈ですね。辛さは控えめだから食べやすい!
古閑さん
僕が辛いの苦手なので、控えめなんです(笑)。シナモンティーの味はどうでした?
偏集部・高野
お湯に葉っぱを入れただけなのに、こんなにおいしくなるなんてビックリです。香りも風味も爽やかで、何杯でも飲みたくなります。
ピュアなシナモンティーは、体の中からリフレッシュできるようなおいしさ
何もない山の中で、ぼーっとする贅沢
偏集部・高野
空気はキレイで、風が気持ち良くて、クラシックの音楽が流れる中で、おいしいごはんを食べられるなんて、本当に贅沢な時間ですねー。古閑さんは、ここでどんなふうに過ごしている時が、いちばん楽しいですか?
古閑さん
ぼーっとしてる時。某テレビ番組で、「ぼーっとしてんじゃねえよ」って流行ってますよね(笑)。でも、僕は「ぼーっとする」って大事だと思います。ピンと緊張が張り詰める時より、遊びがある時の方が大事。車のハンドルとブレーキもそうでしょ。何事も遊びが大事なんです。だから、ここに来たら「スマホは忘れなさい。時間も忘れなさい」って言います。ここに来てくれた人には、そういう時間の素晴らしさを感じてほしいんです。
時間を忘れて、自然の素晴らしさ、そして古閑さん流“人生の楽しみ方”に聞き入った昼下がり
偏集部・高野
古閑さんの元気の秘訣ってなんですか?
古閑さん
夢を持つことです。直近の夢は、農園にツリーハウスを建てること。2年以内には作ろうかなと思ってます。そうしたら子どもたちがもっと遊びに来るだろうし、それを考えるだけで楽しくなっちゃう。
偏集部・高野
まだまだ夢の途中ですね。
古閑さん
僕の原点は、30歳の頃に購入した、サムエル・ウルマンの『青春』が刻まれたプレート。夢を持っている限りあなたは青春だよ、という意味の詩が書いてあります。だから、常に夢を追いかけて、行動しているんですよ。
偏集部・高野
いやー、今日は満喫させていただきました。南多久町の自然と、古閑さんからたっぷり元気をいただいた気がします。
古閑さん
それは良かった。ここでは季節によって採れる食材も体験できる内容も変わるから、来る度に新しい発見に出会えるんですよ。暖かくなったら、また来てくださいね。その頃には、カブトムシ牧場からカブトムシが巣立ってますよ。
偏集部・高野
えっ!カブトムシ牧場!?
古閑さん
ほら、そこの落ち葉やワラが敷いてある一画。毎年ここに、勝手にカブトムシが飛んできて卵を生むんですよ。スイカの皮とか置いておくと、どんどん来る。今は中に幼虫がいますよ。これが子どもたちにめちゃめちゃ人気なんです。
カブトムシ牧場では、幼虫が元気に成長中
偏集部・高野
…まだまだ引き出しがいっぱいですね。1日じゃ、とてもすべての魅力を体験できそうにないです(笑)。必ず、また来ますね!今日はありがとうございました。
古閑さんに会ってから、ずっと心がワクワクしている。野外飯を食べてから、お腹だけでじゃなくて気持ちまで満たされた気がする。うん、なんだかとっても気持ちが清々しい!
この体験を通して、自然って「キレイだな」と見るだけじゃなくて、触れて、食して、身をおいて、一緒に遊ぶ方が、何倍も楽しいことを実感した。
夢とロマンがいっぱい詰まった「こがベリー園」で、自然と野外飯を何十年も偏愛し続けている古閑さんといっぱい話をしてほしい。
たくさんの発見と感動が、あなたを新しい世界へと連れていってくれるはず!
聞き手・文:高野正通 / 撮影:小田垣吉則 / 編集:柳瀬武彦
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