多久市偏愛紀行 vol.03|ロマンがあって神秘的。日本酒よ、もう離さない!

vol.03
ロマンがあって神秘的。日本酒よ、もう離さない!
多久市唯一の蔵元「東鶴酒造」六代目の野中保斉さん
東多久駅からタクシーで約3分、歩いたら15分ぐらい。
(日本酒を試飲できると聞き、取材班は公共交通機関を利用しました)
牛津川のほとりに、レンガ造りの煙突が見えてきた。
多久市唯一の日本酒蔵「東鶴酒造」の目印だ。
38歳の若き六代目が切り盛りし、新しいお酒を次々に生み出している注目の蔵元。
今回ご紹介する偏愛紀行は、「東鶴酒造」での『酒蔵見学&試飲体験!』。
歴史を感じる蔵、おいしい日本酒、そして六代目の情熱に、気持ちよく酔いしれたひとときでした。
聞き手:高野正通(偏愛紀行編集部)

牛津川のほとり、県道35号沿いにある東鶴酒造
偏集部・高野

歴史を感じる佇まい。おいしい気配が漂ってる。。。

ズラッと積まれたコンテナ。この裏側が酒造場に
偏集部・高野

こんにちはー。ごめんくださ〜い!もっと奥かな。。。

遠くから見えていた煙突とご対面
偏集部・高野

機械が動いている音がする。こっちが醸造場みたい。

野中さん

あ、いらっしゃい!

偏集部・高野

社長の野中保斉さんですね。今日はよろしくお願いします。

野中さん

家族経営なもんで忙しくて、仕事しながらですみません。こちらこそよろしくお願いします。

醸造場から慌ただしく出てきた野中保斉さん
野中保斉さん
1830年(天保元年)創業の蔵元「東鶴酒造」の六代目。実は20代前半までは日本酒が苦手で、家業は継がず飲食業の道へ。そんな中、ある蔵元の日本酒を飲み、おいしさに感動。“日本酒愛”があふれ出し、他の蔵元へ勉強に行ったり、様々な日本酒を飲み比べたりと、一気にのめり込む。平成21年から杜氏となり、両親や奥さまら家族みんなで酒造りに励んでいる。

かつては日本酒が苦手!?ユニークな経歴の六代目
偏集部・高野

蔵見学をさせていただく前に、野中さんのことを少し教えてもらってもいいですか?

野中さん

はい。私は平成20年に父から「東鶴酒造」を受け継ぎ、社長になりました。

偏集部・高野

何代目になるんですか?

野中さん

六代目です。

偏集部・高野

長く続く蔵元の家系なんですね。日本酒は身近な存在だったのではないですか?

野中さん

はい。でも、実は若い頃は日本酒が苦手だったんです(苦笑)。

偏集部・高野

えーっ!意外です。跡取りなのに、日本酒が苦手。。。

六代目になるまでには、紆余曲折あったよう
野中さん

私は昭和55年生まれですが、若い時って日本酒は飲み会の罰ゲームみたいな感じでした。そのせいで僕の中で「日本酒=おいしくない」のイメージがついちゃって、あまり好きじゃなかったんです。

偏集部・高野

跡を継ぐ気は?

野中さん

最初はありませんでした。親からも「どうする?」って聞かれましたが、気乗りしなくて。それで焼肉屋で働き始めました。その時に、お酒好きなお客さんがおすすめの蔵元さんを紹介してくれて。試しにそこの日本酒を飲んだら、メチャメチャおいしい!「これなら僕も飲める」と思って、一気に考え方が変わりました。それが「小松酒造(唐津市)」さんの「万齢」。よし、日本酒を一度やってみようと思うようになったキッカケのお酒です。

偏集部・高野

それで、今では日本酒が。。。

野中さん

大好き。もちろん「おいしい日本酒」に限りますが。

偏集部・高野

それから六代目を襲名して。。。

野中さん

勢いで焼肉屋を辞めて、平成20年に「東鶴酒造」に入りました。そして平成21年に杜氏となり、現在へと続いています。

偏集部・高野

無事に跡継ぎが決まって、ご両親もホッとされたでしょうね。

野中さん

実は当蔵は平成元年から休業していたんですよ。酒造りもほとんどしていなくて、私が戻ってきてから再開したような感じです。

偏集部・高野

そうなんですね。しばらくの充電期間を経て、「東鶴酒造」は野中さん自身がおいしいと思う日本酒を造り始めたということですね。

野中さん

はい、まだまだ勉強中ですが。全国の酒蔵に勉強に行ったり、いろんなお酒を飲み比べたり。家の冷蔵庫は、気になる酒蔵さんの日本酒でいっぱい。日本酒に没頭中です。

歴史ある醸造場で、酒造りを間近で体感!
野中さん

話が長くなりましたね。では早速、蔵見学をスタートしましょう。

偏集部・高野

あ、空気がひんやりしますね。

野中さん

土蔵だからです。

偏集部・高野

だいぶ年季が入ってますね。

醸造場内の様子。たくさんの道具や機材が所狭しと並ぶ
野中さん

ええ、味があるでしょ(笑)。ここの建物は僕が帰ってくるまで、まったく使っていませんでした。当時は雨漏りどころか、雨がそのまま降り込んでた感じ。今はもちろん屋根の修理をしましたけど。ここが一番古くて、築100年以上は経っていると思います。

歴史を感じる梁と配管の共演がステキ
野中さん

それでは、まずは日本酒に欠かせないお米のお話です。基本的には佐賀県産のお米を使いますが、全国のいろんなところからもお米を取り寄せています。

偏集部・高野

全部使うんですか?

野中さん

はい。いろんな味わいのお米があるので、毎年いろいろとチャレンジしているんです。とことんおいしい日本酒を追求してますから。

たくさん積まれた米袋。この日あったのは兵庫県産米。日本酒好きの編集部・柳瀬も興味津々
偏集部・高野

使うのは、酒造り用のお米“酒米”ですよね。

野中さん

はい。食べるお米の場合は8〜10%しかお米を削りませんが、酒米の場合は50%ほどを削ります。

偏集部・高野

食用と酒用で味は違いますか?

野中さん

酒米は味気ない感じです。でも、それが酒造りには良い。食べるお米は甘みがありますよね。これを酒にすると、味が強くなりすぎる。また、うま味成分であるアミノ酸が多すぎると、苦味や渋味といった雑味になってしまうんです。

偏集部・高野

へぇ〜。

野中さん

お米を洗ったら、次は蒸す工程です。ボイラーでお湯を沸かして、上にお米を積んで蒸し上げます。

巨大な蒸し器。1回で最大300kgほどのお米を蒸すことができる
野中さん

あっちに昔使っていた釜も残っていますよ。

偏集部・高野

わ!五右衛門風呂みたい。レトロで良い雰囲気ですね。

奥は階段で地下に下りれるようになっており、巨大なかまどのような造りになっている
野中さん

さっき見た釜と役割は一緒です。下に火を炊くところがあります。以前は木炭で火を起こしていました。酒蔵に煙突があるのは、その名残なんです。

偏集部・高野

蒸すのはいつぐらいに行うのですか?

野中さん

お米を蒸してお酒として仕込み、搾るまでは連続で行います。スタートは秋口から、最後は春先まで。今日の朝もお米を蒸していました。それでは、次は麹についてご説明します。ここが麹米を作る部屋です。麹って聞いたことはありますか?

偏集部・高野

はい、名前ぐらいは。。。

野中さん

最近では塩麹とかでも名前を聞きますね。結局どんなものかというと、蒸したお米に麹菌というカビ菌を振りまき、米を使って繁殖させるんです。それによって酵素が蓄積され、お米の成分を分解させる物質が作られます。酒造りには欠かせない工程です。

麹を培養している部屋。中は立入禁止!
偏集部・高野

かわいいブランケットがかけてありますね。

野中さん

コレが保温にちょうど良いと聞いて、わざわざ某スーパーに買いに行きました(笑)。この部屋は冬でも室温が30度〜35度ぐらい、湿度も調整しています。1回で2日間ほどかけて培養します。

偏集部・高野

徹夜で見守ったりするんですか?

野中さん

ずっとではないですが、2時間おきに麹のチェックをしないといけない時もあるので、私はこの時期、ほとんど外出しません。気になって、気になって。

偏集部・高野

過保護ですねえ(笑)。

野中さん

それぐらい大切な麹なんです。温度管理や作業のタイミングを少し間違えるだけで、おいしいお酒にはなりませんから。では、次は仕込みの工程に行きましょう。

偏集部・高野

おおっ、この辺はお酒の香りがグッと強くなりますね。

野中さん

そうですか。いつもいると、もう分からないです(笑)。まずは第一段階を見てみましょう。このタンクをのぞいてみてください。

偏集部・高野

ぷくぷく泡が出てる!それにとっても良い香り。

野中さん

生きてるみたいでしょ。米と水と麹でこうなるんです。神秘的だと思いません?

偏集部・高野

確かに、生命を感じますね。これはどれぐらい経ったものですか?

第一段階の仕込みタンク。ぷくぷくと泡が出ている
野中さん

仕込みを始めて5日目ぐらい。先ほどの麹米、蒸したお米、仕込みの水、そして酵母菌を合わせています。酵母菌はアルコール発酵させるために必要なものです。

偏集部・高野

いろんな大きさのタンクがあるんですね。

野中さん

いきなり大きなタンクに酵母菌を入れて培養すると、酵母菌の量が容量に対して圧倒的に少ないため、繁殖する前に別の菌が入ってきてしまいます。そこで最初は小さなタンクで最大まで酵母の量を増やし、次に2〜3倍の容量のタンクへ。ここで2日間ぐらい増殖させて、最終の大きなタンクへ移します。

偏集部・高野

手間がかかりますね。

野中さん

こっちが本仕込みのタンクです。階段を上って、のぞいてみてください。

どんどん大きなサイズのタンクに
偏集部・高野

うわぁ!すごく華やかな香り。飲みたい…!

野中さん

だめですよ(笑)。まだ炭酸ガスが出てますから。

偏集部・高野

香りだけだと、すごく甘そうな感じですね。

野中さん

その通りで、最初は甘いんですよ。お米を食べる時を想像してください。噛めば噛むほど唾液の酵素によって甘くなるじゃないですか。お酒も麹が作った酵素で甘くなって、甘酒みたいになるんです。

偏集部・高野

なるほど。

野中さん

でも、その甘い成分を酵母菌が食べることで、アルコール発酵していきます。だから辛くなる。つまり、甘い方から辛い方にシフトしていくんです。だから、どのタイミングで搾るかによって、お酒の甘い・辛いを調整することができます。

偏集部・高野

いよいよ搾るんですね。

野中さん

はい、これで仕込みは完了です。当蔵では、年間だいたいタンク20数個分を仕込みます。1個で一升瓶1000本分ぐらいなので、年間の製造量は一升瓶換算で約2万本です。

偏集部・高野

たくさんの手間と愛情をかけての2万本ですね。

野中さん

酒蔵としては、生産量は少ない方。でも、品質には自信を持っています。そもそも水とお米だけで、おいしいお酒はできるって、とっても神秘的だと思いませんか?僕はそこにロマンを感じます。だからお酒が愛おしくて仕方ない。

偏集部・高野

偏愛というより溺愛ですね!

「おいしくな〜れ」と願いを込めて、タンクに寄り添う野中さん
美酒を搾り続けてきた“槽(ふね)”は必見!
野中さん

次は搾りの工程に行きましょう。これが酒を絞る機械。私たちは俗称で“槽(ふね)”と呼んでいます。

偏集部・高野

デカい!ロボットの足みたい。上からプレスする感じですか?

野中さん

そうですね。これは、ひと昔前の機械で昭和30年製。油圧で上下に動かします。パワーがすごくて、1平方センチメートルあたり最大200kgの圧力をかけることができるんです。

野中さんがぜひ見てほしいと話す、お酒搾りの機械“槽”
偏集部・高野

槽の下に搾るお酒を入れるのですか?ずいぶん深いですね。

野中さん

酒袋というものがあって、これに仕込んだお酒7〜8リットルぐらいを入れます。この袋ってうまくできていて、きちんとたたむと封をしなくてもこぼれない。自重で口が閉まります。それを槽の下に200〜300枚ほど積んでいきます。

偏集部・高野

これも大変な作業ですね!

槽を下げて酒袋に圧力をかけると、横からろ過されてお酒が出てくる仕組み。搾ったお酒は、さらに深いところにあるタンクに溜っていく
偏集部・高野

「東鶴酒造」のお酒は、すべてここを通ってできるんですね。

野中さん

そうです。タンクに溜ったお酒は、ポンプで組み上げられて向こうの大きなタンクに運ばれます。

搾ったお酒はここからホースを通って、貯蔵用のタンクへ運ばれる
野中さん

隙間なく積んだ酒袋が槽に押されてギュッと低く、20分の1ぐらいの高さになります。その1回で、できるお酒は1600リットルぐらい。一升瓶800〜900本分ですね。

偏集部・高野

槽はこれだけ長く使っていて、故障しませんか?

野中さん

しますよ。ゆがみなど出てきます。メンテナンスが大変で、できる人が福岡に一人しかいない。メーカーもすでに製造していなくて、替えの部品も、その人が持っているだけ。

偏集部・高野

貴重な職人さんですね。その人が引退したら大変なことになりますね。

野中さん

その辺はうちも考えておかないといけなくて。これを使っているメーカーさんは、全国でもおそらく1割ぐらい。新しい機械がいっぱい出てますから。でも、やっぱり槽で搾りたいんですよね。愛着がある。これじゃないと、「東鶴酒造」のお酒の味が出せなくて。

偏集部・高野

道具にも偏愛ですね。

野中さん

昔ながらの作り方を大事にしているんです。では、次は貯蔵の方を見てみましょう。ホースをたどって行くと、貯蔵タンクにつながっています。ここには昨日まで搾っていたお酒が入ってますよ。

書いてある容量は、タンクの最大容量。点検日は、タンク自体の点検をした日。お酒は税務署の管轄なので、細かな数字まで管理されている
偏集部・高野

全てのタンクにお酒が入っているんですか?

野中さん

いえ、空もあります。うちは基本的にタンクで貯蔵せず、瓶詰めして冷蔵庫で貯蔵します。だから、このタンクのお酒も1週間以内には瓶詰めします。

瓶は業者に洗浄してもらった後、自分たちでも再度洗うという徹底ぶり。肉眼で汚れてないかをチェックして、瓶詰め作業へ。ラベル貼りもすべて手作業で行うそう
野中さん

ここが冷蔵庫。1万5千本ほどが入ります。隣にも冷蔵庫があって、そっちは3000本ぐらい入ります。

冷蔵庫は出荷を待つお酒でいっぱい!ん、真ん中に銀色の鍋みたいなのが…
野中さん

ちょっと特殊なお酒の仕込みをしているところです。今まで見ていただいたお酒は、雑菌汚染防止のために乳酸菌というものを加えています。それで酸性にすることで、あまり雑菌が発生しないようにしています。

偏集部・高野

これは違うんですか?

野中さん

これは江戸時代ぐらいのやり方で、乳酸菌を添加せずに、自然に乳酸菌を発生させて発酵を進めています。麹菌、酵母菌、乳酸菌、硝酸菌という4つの菌が複雑な絡み方をしてできあがる、すごく面白いお酒。味は濃厚で複雑、独特の風味を楽しめます。

冷蔵庫でたったひとつ、ひっそりと造られていたお酒。野中さんはこちらも愛おしそうに見つめていた
偏集部・高野

真ん中にやかんみたいなのがありますね。

野中さん

“だき”という道具で、中にお湯や水を入れて、中身を直接温めたり冷やしたりするために使います。

偏集部・高野

湯たんぽみたいですね。

野中さん

“だき”に70度ぐらいのお湯を入れると、中心付近は50度ぐらいになって、お米を早く溶かす作業が行われます。その外側は30度ぐらいになり、こちらは乳酸菌や硝酸菌が発育しやすい環境に。一番外側は冷蔵庫の冷気で冷やされたままなので、雑菌の繁殖が抑えられます。場所によって違う環境をつくることができる便利な道具なんです。

真ん中に浮いているのが“だき”
野中さん

今はあまり使われていないでしょうね。さて、これで蔵見学は終了です。いかがでしたか?

偏集部・高野

知らないことがいっぱいで、「なるほど」の連続でした。見たことのない機械もいっぱいあって、ワクワクしました。でも、いまの一番の気持ちは“早く飲みたい”(笑)。だって、こだわりが詰まってたから、おいしいに決まってます!

野中さん

ありがとうございます。では、販売所に行って試飲しましょう。

待ちに待った試飲で、日本酒の可能性に感動!
野中さん

今日は天気も良いので、外で飲みましょうか。

偏集部・高野

いいですね。野中さんのおすすめをいくつか試飲させてください。

野中さん

分かりました。「東鶴酒造」では10種類ほど造っていますが、今日は新作を含め3種類お持ちしました。まずは定番の特別純米酒です。どうぞ。

数ある中から、今回は「特別純米酒」、「おりがらみ 生」、「実のり 生酛つくり」を試飲

トクトクトク。。。

偏集部・高野

ありがとうございます!では、試飲ですけど(笑)、乾杯!

野中さんと販売所の前で。多久の青空の下、軒先試飲会スタート
偏集部・高野

待望のお酒、いただきます!ゴクリ。。。は〜、優しい甘さ。飲み口がスッキリしてる。これは飲みやすいですね!うん、おいしい!!うっかり飲みすぎそうな感じです。

野中さん

ありがとうございます。

偏集部・高野

今はよく冷やしてありますが、常温でも、ぬる燗でもいけますね。

野中さん

そうですね。いわゆる“うまくち、すっきり系”です。じゃあ、次に行きますか。これは今年の搾りたて、12月にリリースした「おりがらみ 生」です。

トクトクトク。。。

偏集部・高野

“おり”がありますね。香りも特別純米酒とは変わって、より鮮烈な感じ。ゴクリ。。。おぉ、これは濃厚で、うま味がしっかりしてる。甘みもたっぷりで、辛口が苦手な人には特におすすめですね。女性に人気がありそう。

野中さん

では、最後の「実のり 生酛つくり」。これは、チャレンジで造った白麹仕込みの純米吟醸酒で、9月頃発売予定です。白麹というのは、普通は焼酎の仕込みに使われる麹で、これで造るとクエン酸を多く含むお酒ができるんですよ。つまり甘酸っぱくて爽やかなお酒。ちょっと変わり種です。

偏集部・高野

初体験です。楽しみ!

トクトクトク。。。

偏集部・高野

少し色がついてますね。香りは爽やか。では、いただきます。ゴクリ。。。うわぁ!本当だ!!甘酸っぱい。不思議な味わいですね〜。果実酒のような感じで、とってもおいしい!

野中さん

良かったです。ユニークでおいしい日本酒に仕上がったと思います。麹の性質でこんなに変わるんですから、日本酒ってまだまだ可能性があるんです。

偏集部・高野

これはしっかり冷やした方がおいしいですね。このフルーティーな感じ…、何も知らずに飲んだら白ワインと思うかも。

野中さん

日本酒って繊細な違いを表現していることが多いんですよね。その微妙なラインで皆さんは飲むお酒を選んでいるんでしょうけど、私はできるだけ特徴付けしたお酒を造りたいと考えています。

偏集部・高野

「味の振り幅のあるお酒」ということですか?

野中さん

そうですね。少し違うというより、はっきり違う。その方が、飲む人も好みを選びやすいと思いますし、日本酒の面白さや可能性を伝えられると思うんです。

理想のお酒について熱く語る野中さん。4月頃には「うすにごり 生」、6月頃には炭酸ガスを含んだ「蝉しぐれ スパークリング 生」も発売予定とのこと。待ち遠しい!
偏集部・高野

日本酒が苦手だったからこそ、おいしくて分かりやすい日本酒造りを目指しているのかもしれませんね。

野中さん

そうかもしれません。「万齢」を飲んで、日本酒造りをやるぞ!って決めてから、いろんなお酒を飲みました。同じ日本酒でも、本当にいろんな味わいがあるんです。面白くて、どんどん日本酒の世界にのめり込んでいきましたね。私が気付いたように、多くの人に魅力を伝えていきたいと思います。

偏集部・高野

愛があふれてますね。

野中さん

今では県外で居酒屋さんに行く時も、地酒があるかどうかが判断基準。日本酒を飲まなきゃ“もったいない”と思うまでになりました(笑)。

偏集部・高野

ものすごい変貌ぶりですね。

野中さん

地元の多久への愛情も強くなりましたよ。というのも、「東鶴酒造」は私が戻るまで20年間休業していたので、地元では“消えたブランド”状態だったんです。製造を再開した後も、地元より関東での販売量の方が多い状態でした。それから多久でも再び知られるようになってきたので、いずれは地元に根ざしたお酒を造りたいと考えていました。

偏集部・高野

ここに「多久」と書かれたお酒がありますが。。。

野中さん

そうなんです!実はご縁があって、多久のお酒を造るお手伝いをさせていただきました。多久を盛り上げていこうと取り組む団体が企画したお酒で、多久のお米を使っています。団体のメンバーには醸造途中で何度も来てもらい、みんなで工夫して造り上げたお酒です。すっきり甘口で、香りは華やか。良いお酒ができました。

一昨日にお披露目したばかりという「多久」
偏集部・高野

多久100%のお酒ですね!これは新しい多久の名物になりそう。2泊3日ぐらいで遊びに来ないと、全種類を堪能するのは難しいですね。では、日も暮れてきたので、最後の質問です。日本酒を造ってて、一番幸せだと思う瞬間はいつですか?

野中さん

槽で搾ったお酒が出てきた瞬間。これはうまい(笑)。

偏集部・高野

それ、飲みたいです!

野中さん

残念ながら、造った人しか飲めない1杯なんです。搾りたてをそのまま汲んで、家の茶の間まで持っていって飲む時に、これは贅沢だなって思います(笑)。

偏集部・高野

最高ですね!

野中さん

その日が鍋だったりした日には、もうやばい(笑)。

偏集部・高野

うらやましい。。。でも、「今日は搾ってくるから、鍋にして」って奥様にお願いしたらいいじゃないですか。

野中さん

そこはまあ、嫁さんのさじ加減ですから(笑)。シチューだった時があって、それは少し残念でしたね…まあ、子ども優先ですから(笑)。

偏集部・高野

日本酒愛以上に、家族愛ですね。ごちそうさまです!

最後はステキなお父さんの一面を見せてくれた野中さん
味以上に感動したのが、野中さんの日本酒愛。
日本酒が苦手だった人が、ここまで変わるのかとビックリ。
でも、苦手だったからこそ、野中さんは日本酒の魅力を客観的に見ることができるのだろう。
本当においしい日本酒を、分かりやすい特徴とともに提案する。そのために、手間や努力は惜しまない。
蔵見学をして、その信念がひしひしと伝わってきた。
お酒の造り方、使い込まれた道具、造り手の声、そしておいしい1杯。
すべてに触れられる、濃密な時間だった今回の体験。
さあ、日本酒への新たな扉を、開きに行こう!
聞き手・文:高野正通 / 撮影:小田垣吉則 / 編集:柳瀬武彦