書店2.0の時代へ 「店舗」を軸としたコミュニティ論!ミレニアル世代が話題にする、『遊廓』専門書店の魅力とは?

江戸幕府によって公認された遊廓として栄えた街・吉原。そんな街に平成が終わろうとしている今、ひっそりと遊廓・歓楽街などの文献を専門に扱う書店「カストリ書房」店長である遊廓家・渡辺豪氏が、リアルな体験の場として、吉原の街を案内する「日本唯一の遊廓書店 店長と行くディープ吉原歩き」を開催されています。

渡辺氏をTABICA運営の細川がインタビューいたしました。

渡辺豪(わたなべ・ごう)氏
遊廓専門書店カストリ書房店長。これまで400箇所前後の色街跡を取材・撮影。2016年、吉原遊廓跡に遊廓専門書店「カストリ書房」をオープン。TABICAでは、いま注目されるディープな街「遊廓」をご案内をしている。
以下、メディア出演多数
『マツコ・デラックス特番』、『週刊文春』『週刊新潮』『an・an』『サンデー毎日』『ポパイ』『FLASH』『東京人』『毎日新聞』『産経新聞』『読売新聞』『東京新聞』等

「カストリ書房」とは?
遊廓や歓楽街に関する書籍を扱っている。広さは、わずか7畳ほど。店内には所狭しと遊廓や歓楽街に関する書籍が並んでいる。店名のカストリは、「カストリ雑誌」に由来しているそうだ。ちなみに、「カストリ雑誌」とは、太平洋戦争終結直後、出版の自由化を機に多数発行された大衆向け娯楽雑誌のこと。 こうした娯楽雑誌の多くが、たいてい3号で休廃刊(=3号雑誌)したことから、「3合飲むと悪酔いして潰れる」といわれたカストリ酒にかけた名称であるそう。

最初は、観光地ではないディープな場所に漠然とした興味を持っていた1人だった

「カストリ書房」店頭の様子

カストリ書房店長の渡辺氏は、IT系企業に勤められていて、街歩き・遊廓・出版などとはまったく別の世界にいたという。

企業に勤める傍ら、趣味の旅行を続けていたが、そのうちメインの観光地巡りにも飽きてしまって、メインの観光地ではないスポットに旅行するようになっていき、その地域に根ざしている文化や歴史の香りが、今でも残っているスポットに魅力を感じられたそうです。

TABICAを運営する株式会社ガイアックスもIT関係のビジネスを展開する企業で、地域の消えゆく文化や暮らしを体験できる仕組みを作りたい、ということでTABICAのサービスをはじめている。かなり共感する部分が近い。

渡辺氏
「旅行していてさびれたスナック街などを歩いているうち、なんとなく『ここはおもしろい、なんだろうなぁ』と思って、その街の過去を調べてみると、かつて遊廓があった場所だとわかったんです。街が過去の記憶を残し続けているっていうところに魅かれたのかなと思います。それから、遊廓の跡地巡りが自分の趣味になっていきました。自分の足でさまざまな遊廓・歓楽街の跡地を訪ねていると、遊廓・歓楽そのものが急速に失われていく日本の現実を目の当たりにしました。遊廓があった地域は、どんどん更地になっていき、関連する書籍も入手することも難しくなっていたと感じていました。

僕のように興味を持っている人に対して、できるだけ沢山の当時の情報を集め『正しい情報』を手軽に体感してもらえる場所を作りたい、そんな思いから、カストリ書房をオープンしました。」

細川
「なるほど。面白いですね。ここの書店はそういうきっかけではじまっているんですね。オープンされる前も、元々インターネットで発信などをされていたんですよね?」

渡辺氏
「そうですね。書店を始める前から全国の遊廓を調べてそれらを訪ね歩いてSNSで配信しているんですが、反応が増えていっているのを実感していました。」

細川
「確かに。書店がSNSで影響力を持っている、というのがとても面白いと思っていたのですが、書店を始める前からSNSで発信されていたとは….。カストリ書房さんのTwitterはすごくエンゲージメントが高く、とても反応されている方が多いように感じます。」


カストリ書房のTwitterアカウント

渡辺氏
「特に面白かったのは、Twitterの情報に反応してくるのは女性が多かったことです。だから、カストリ書房来てくださるお客さんも、街歩きのお客さんも、女性が多いことを当初から想定していました。」


約800リツイート、約2100いいね、が付いている投稿

ミレニアル世代の、特に『女性』がメインの客層

渡辺氏
「遊廓・歓楽街の書籍や資料を扱う書店としては意外にも、と思う人も少なくはないだろうと思いますが、お客様の7割は20~30代(ミレニアル世代)の女性が占めていて、リピーターに関しては女性比率がどんどん高まっています。」

細川
「若い女性が『遊廓』といういわゆるディープなスポットに魅了される理由とは一体どういったところにあるのでしょうか。」

渡辺氏
「明確に分かれるのですが、男性は理性的な反応を示すんです。「今となってはこれは貴重な資料ですね」みたいな。一方で、女性の最初の反応は「おもしろい」なんです。興味があって、純粋に面白い、知りたい、という感想が女性は多いような気がします。

例えば、レトロな看板がいいよねとか、昔の喫茶店やスナックが好きだとかという昭和レトロブームなどが理由として考えられるのではないでしょうか。現代にもかっこいいものとか洗練されているものはたくさんあるんですけど、無駄のない洗練ですよね。昭和のラブホテルなんか、室内にメリーゴーラウンドなんかあったりして、ある種、無駄の塊です。遊廓も豪華絢爛なイメージがあって、勢いのあった時代への憧れみたいなものがあるんじゃないでしょうか。

そういった過去の文化に対して、純粋に興味を思っている人が多いと思います。書房を構え、街歩きも開催して、お客さんと話す機会が増えましたが、皆様、遊廓について気になってはいるけど、なぜ興味を持っているか、明確な理由を持っている人は少ない印象をもっています。純粋な興味だけだと思います。

例えば、スポーツなどや自分が好きなことって『何で好きなのか?』を聞かれると理由がないことが多いと思います。多分、お客さんも”なんとなく”好奇心や興味を持って来ていらっしゃるんだと思います。その好奇心に対して、正しい情報を取得したいと思ってここに訪れる人が多いように思います。」

細川
「なるほど、これは大変勉強になります。SNSでコミュニケーションをとったり、実際にお会いされてそういう考察をされているというところがすごいですね。」

確かに、TABICAについても女性のユーザーが多い。こういったディープなスポットには女性客が興味を持つのだろうか。

※TABICAの参加者の男女比率

旅行先で実際に、”話を聴くこと”で、さらに興味を持つようになった

渡辺氏
「旅行先で、『話を聴くこと』に興味を持つようになったんです。そこに住んでいる人…新しい住人の方もいるし、今も戦後からの仕事をしている人もいる。どんな思いを持っているのかなっていうところに興味が湧いてきて。人の気持ちを知りたくて、全国津々浦々を歩いて、1軒1軒を伺って話を聴いていたりしました。」

細川
「なかなかできないことですよね。すごいです。色々話をしてくれるもんだったりするんですか?」

渡辺氏
意外と話を伺うと、ものすごくしゃべってくれるんです。遊廓だった地区の近所に住む人に来訪目的を告げたりすると、『そういうことは訊かれたくないだろうから、あの辺りへは行かないほうがいいんじゃないの』というアドバイスをもらうこともあります。

でも、僕自身『周りではなくご本人たちの言葉を聴きたい』という思いがあるので、勇気を出して特にかしこまった理由を付けず、ただ素直に『好きなんです』っていう感じで、連絡しお宅を訪問すると、最初はびっくりされるんだけれども、だいたい話を聴かせてもらえるんですよ。こちらから根掘り葉掘り聞かなくても、向こうからいろんなことを教えてくれる場合がものすごく多いです。

遊廓の周囲に住む人たちが敬遠しているというか、腫れ物に触る気持ちでいて。反面、遊廓を営んでいたご家族の方は、意外にカラッとされている、というのが私なりの経験則です。

考え方は色々あるけれども、辛い環境にあった女性達がいたことはもちろん忘れてはいけませんが、遊廓の経営者側も、遊女たちと同じように歴史に翻弄されてきた側というか、悔しい思いはあると思うんですよね。」

リアルの場で、五感を使って体感する、が面白い

 
細川
「なるほど、実際に話してみて、現地にいってみてわかることって沢山ありそうですね。」

渡辺氏
「そうなんです。現代の私たちは、遊廓経営者対遊女さん達という対立構造で考えがちなんだけれども、その外側にはもっと大きな力、例えば国策であったり経済成長、が働いていて、地域や時代毎に例外やバリエーションが無数にある。そういう過去を生きていない人間からすると、そういう過去の中で生きてきた1人1人の思いを聞いたり、話したり、する中で発見があることが面白いと感じていました。

今まで他の人に自分の家のことを話したことはなかったんだけれども、『あんたならいいわ』と言ってもらえたことが嬉しくて、印象に残っていますね。

あとは、地方へ伺った際に『あんたどこから来たの』ってきかれたときに、『東京からです』って答えるとびっくりされて、『まぁまぁ、茶でも飲んできなさい』って言ってもらえたりとかね。

細川
「そういう温かみに触れられるのっていいですよね。本やネットだけではそこまでの体感は得られないですよね。」

渡辺氏
「そうですね。かつて遊廓を経営していた家族は今も特殊なんじゃないかな、アウトローなんじゃないかなと、関わりのない私たちは勝手にそう思いますが、やっぱり僕らと一緒なんだな、と感じましたね。自分の世界とは切り離された世界の人たちなんじゃないかと思っていたんですが、普通の人たちなんです。そうした別世界の住人だと思えていた人達が、自分の世界と地続きなのだと感じる瞬間が何ともいえない充実感になりますね。

遊廓というものは、遊女の視点から語れることが多いですが、かつての経営者たちも『言葉を持っている人たちなんだ』 というのが、僕の思いですね。彼らは彼らで色んな辛いことや悲しいことももちろんあっただろうし、そういった部分に目を向けたいなと思うんです。」

書籍を読む、だけでなく、体験していただくために『街歩き』を開催

細川
「そういったリアルを感じていただきたいと思われて、街歩きを開催されはじめたという感じですか?」

渡辺氏
「そうですね。次の展開を考え始めた時に、集客の手段としてイベントに目をつけました。今の私たちは1分、2分の例えばトイレに入っているような隙間時間でもスマホで検索したり、ゲームをしたり、細切れになった時間も情報収集に使うようになりました。

そういった中で1時間、2時間ただ本を読むという行為は昔に比べて間違いなく辛くなっているはずです。さらに他のエンターテイメントが増えたことによって「読書」が相対的に人を惹きつけなくなっているということも事実。そういった現状を踏まえて、リアルの場での体験型コンテンツというものに注目が集まっていると考えたんです。

自分の目で見て、足で歩いた後には、本だけではわからない面白さがいつも見つかるように思っています。オリンピックを控えて、大きく変わろうとする東京都、そして吉原で、色街の痕跡を見ることができる最後の世代になってしまうかもしれないなぁと。」


渡辺氏が開催している街歩き体験の詳細ページ

細川
「僕も渡辺さんにご案内いただいて実際に体験させていただきましたが、本当に目から鱗の体験でした。こういうことをいってはなんですが、知らなかったことを沢山知れた気がして、すごく楽しかったです。場所柄、少し心配でしたが、今も吉原で書店を経営している渡辺さんにしっかりサポートいただいて案内いただければ、女性の方でも安心して参加できますね。」


一次情報を元に、今の吉原をご案内いただきました


渡辺氏のプロフィールページには、
体験参加者の満足度が高いレビューが並んでいる

本だけではなく、『お土産』となるグッズも販売

細川
「書店にも、本だけでなく、お土産になるようなグッズも販売されているんですね。そういった工夫もすごく面白いと思いました。思い出になりますね。エンタメとしてかなり完成度が高い街歩きだと思います。」

渡辺氏
「そうなんです。自分でデザインして作っているものもおいています。」

細川
「ご自身でデザインされているんですか、すごい!!本以外にもたくさんのものが販売されていて、これは興味をそそられますね。」


本だけでなく、遊びにきたの思い出に残るようなユニークなお土産を沢山販売されていた


カストリ雑誌をモチーフにしたグッズのガチャガチャ


店内にはアーティストが作成した「鼻緒」が展示・販売されていた


渡辺氏も着用されていた哀愁漂うオリジナルTシャツ

今後の目標は『日本全国の遊廓街歩きの開催』をやってみたい

細川
「今後の目標といいますか、これからどういう活動にしていきたいなど展望はありますか?」

渡辺氏
「遊廓は500箇所以上存在していて、戦後ともなると売春街が2,000箇所弱あったらしいんです。平均して1県あたり10箇所くらいはあったわけです。今も残っている場所は『この場所だよね』とはっきりわかるかもしれませんが、ほとんどのところに関しては今は住宅街になっていたり、地方であれば家はおろか、雑木林になっていることも珍しくありません。

サラリーマンだった当時、余暇を利用して2012年から2014年ぐらいまでの間に全国を旅して周り、写真を撮り集めたり、情報を集めたりしていました。そもそも情報源がないことに問題があるんじゃないかと思っていまして、参考するに足りうるような優れた資料を復刻しようとしました。可能な限り、積極的に取材を進め、約2年間で全国の遊廓・歓楽街があった地域を約300箇所ほど回って。変化も早いため、スピードを優先しました。


渡辺氏が全国の遊廓・歓楽街の中を撮影した写真集

取材のスピードを上げるほど、調査精度や深度との引き替えになりますが、それでもスピードを優先としたのは、近年、多くの遊廓・歓楽街が消失していっている現実を目の当たりしたことです。

ただ、取材をしはじめた当初とは時代も変わって、遊廓や歓楽街もいい意味でもサブカルチャーの枠に取り込まれ、かつてのようなキワモノ趣味ではなく、一般化が進んだように見受けられます。現在、遊廓や歓楽街をメインのテーマとしてないサイトであっても、取り上げていることが多くなりました。

60年近くたった今、どんどん人からの情報や建物がなくなっていく今このタイミングで、吉原以外でも、その地域ならではの体験ができる遊廓街歩きを全国で開催してみたいなぁと漠然と思っています。」

細川
「ぜひ、TABICAでもそのサポートができたらと思っています。2019年に仕掛けられたらいいですね。頑張ります。最後になりますが、ひとこと、お願いします。」

知り尽くした人が案内する、だから、街は何倍も面白くなる!

細川
「最後になりますが、ひとこと、お願いします。」

渡辺氏
「遊廓や歓楽街に対して、多くの方が場所柄や治安の悪さといったものを懸念するかも知れません。私自身は個人的にも吉原に住んでいましたが、0時きっかりに特殊浴場は閉店し、その後はひっそりとしたもので、少なくとも吉原は巨大ターミナル駅近くにあるような繁華街とは全く性質の異なった街で、治安の悪さを感じることはありません。

また、そもそもご年配の方が多い街なので、夜中に酔っぱらいが騒いでいたり、コンビニ前に屯しているような風景もありません。カストリ書房の位置は、交番から至近の位置ですので(これは吉原に限らないことですが)、安心して来店頂けるものと考えています。」

細川
「やっぱりいろんなことを知りつくされていますね。頼もしいです。」

渡辺氏
「ありがとうございます。ぜひ、興味を持っていただきましたら、一度街歩きにご参加いただければと思います。」

細川
「お忙しい中、街歩きから、インタビューまで色々と教えていただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」

最後に『書店をアップデートせよ』渡辺氏の活動を図解化してみた

渡辺さんの活動は、これからの書店のあり方として、ともて新しくて面白い活動をされていると感じました。今までの書店のあり方とは全く違い、まさに『書店2.0』!アップデートされた書店だと思います。店舗をメディアやコミュニティとしてとらえる、新しい書店のあり方を提案されています。

1.専門的な書物しか取り扱わない
2.SNSを活用し、ファンを巻き込んでリアル店舗のブランド化をしている
3.ターゲットが明確である(ミレニアム世代の女性)
4.イベントや体験を開催し、ファンのエンゲージメントを高めている
5.復興版を自ら作ったり、古書も集められ、そこでしか手に入らない限定品を販売
6.本だけでなく限定グッズも販売されている
7.ネットでの販売(EC販売)もされている

一つの書店が、まるでコミュニティのように運営されていました。遊廓家・渡辺豪氏、それからカストリ書房の活動に、これからも目が離せない。