好奇心が騒ぎ出す自然の中で、たくましく生きる力をチャージする。

 
好奇心が騒ぎ出す自然の中で、
たくましく生きる力をチャージする。

都市で生活する人にとって、暮らしの中で自然に触れる時間は限られている。山根富佐郎さんは東京から1時間もかからない横浜市緑区にある広大なフィールドで、子どものように遊びながら、自然体験・農業体験をおこなっている。そこには眠っていた好奇心が騒ぎ出す、忘れられない体験が待っている。

山根 富佐郎さん

島根県益田市生まれ、神奈川県横浜市在住。大学時代は農学部で食品工業学を専攻し、海辺や川辺でよくキャンプをしていた。会社員時代の経験から、一に健康、二に人間関係、三にお金という信条を持っている。60代になった今でもソフトボールのクラブチームに所属し、100回ずつの腹筋、背筋、腕立て伏せは欠かさない。ヨーグルトや味噌を自作するなど食生活も徹底して健康第一。キノコと仮想通貨に詳しい。

好奇心は年齢を凌駕する

山根さんは就職を機に上京し、大手食品会社でバリバリ働いた後、30代半ばで独立。それからは物流コンサルタントとして、幾多の国家レベルの大規模プロジェクトに関わってきた。ここ緑区でも自ら率先してさまざまな交流を生み出し、2010年からこの土地の活用を任されるようになったという。本格的なアウトドアはハードルが高いけれど、もっと緑に触れたいという人にとっては、ここは羨ましい秘密基地のような場所だ。

「子どもの能力を親が抑えてしまっていることって結構あるじゃないですか。わたしは、未来を生きる子どもたちがのびのびと成長できるように、この活動をはじめたんです。これまで育ててもらった世の中への恩返しですかね。」そう話す山根さんの表情には年齢を忘れさせる無邪気の奥に真剣さが宿っている。

自力で土地を整備し、何種類もの野菜を育て、若者を100人集める交流イベントも企画する。山根さんは遊びのプロそのものだ。「しょうもないことを続けるっていうのが、重要なんですよ。なんだって、はじめることと続けること。人生それに尽きますよ。」さまざまな経験されてきた山根さんの言葉はシンプルだが、強い。そんな強さとバランスを取るかのように、子どものような笑顔がゲストの気持ちを和ませる。

山根さんの自然体験・農業体験は親子連れでの参加が多い。広々としたフィールドの中では、子どもたちの好奇心を抑えることなく、何でも思いっきりやってみることができる。「この前なんか、子どもたちがショベルカーを運転していて、とても楽しそうでしたよ。あ、そうそう、ウェルカム椎茸をどうぞ。さっき採れたばかりで美味しいですよ!」ここに来たら、年齢という概念は一度忘れたほうがよさそうである。

自然に触れると、自然になれる

体験のはじまりは人参の収穫から。ゲストたちは慣れない手つきで土を掘っていく。お店で売られているものを買うだけではわからない、葉っぱのかたち、みずみずしい感触、土の匂い。さまざまなことを感じながら、両手を茶色くしていくゲストたちの姿は夢中そのものだ。

人参を収穫したら、お昼ごはんの時間。椎茸とお餅を網の上で炭火焼きにする。外で、みんなで、美味しいものを食べる時間は、いわずもがな至福の時だ。 採れたての人参はスティック状に切って、生き生きとした歯ごたえを楽しむ。洗う水は積もった雪を溶かして用意するというあたりに、自然と遊ぶ達人の知恵が垣間見えた。

さあ、火遊びをしよう!

そんな山根さんの一言で、ピザ焼きが始まった。フライパンの中にピザを入れ、下からだけでなく上からも火をつけて、こんがりと焼き上げる。なんともやんちゃな焼き方だが、きっと幾多の実験の末にたどりついたベストな調理法なのだろう。ゲストの中にはほとんど火を着けたことがないという方も。人間の文明の始まりともいえる火も、文明が進化した今では見ることも少なくなった。ゆれる炎を見ていると不思議と落ち着くのも、人間の本能に刻み込まれた何かが反応しているのかもしれない。

人のために働ける、背骨のある人間になろう

山根さんの自然体験・農業体験は終始笑いにあふれている。それは山根さん自身が心から楽しんでいることがゲストたちに伝染しているからだろう。しかし、この体験には笑いだけでなく、学びがある。話の節々に光る山根さんの人生哲学に基づく金言の数々が心に響くのだ。

「わたしは島根の農家の家に生まれたのですが、母を若くして亡くしました。農薬で体を悪くしてしまったんです。それから、とにかく食べるものと健康に気を使おうと心に決めました。毎日腕立て伏せ、腹筋、背筋も100回ずつやってます。まだまだ現役ですよ!」山根さんは衰え知らずの体で、自らさまざまな無農薬野菜を作り、ご近所さんと分け合っているという。 「健康の次に大切なのは、人間関係です。みんな支え合ってしか生きられませんからね。わたしは誰かのために働ける、背骨のある人間になろうといつも思ってきました。それには自分が何か価値を提供できるようにならなきゃいけない。肩書の価値と人間の価値は違いますからね。歴史や周りの人たちから多くを学びながら、人間としての価値を磨いていきたい。そうしないとこれからの時代は、AIに仕事を奪われちゃいますよ。」

山根さんといると、遊びの中に学びがあり、不思議と体も心も頭もリフレッシュしていく。また自分の日常をたくましく生きて、報告しに来たい。そんな風に感じさせる頼れる人生の先輩だ。体験を終えたゲストたちは帰りがけに、お土産でいただいた野菜を抱えながら口を揃えるようにして言った、「山根さん、また会いにいきますね!」。

Photo: 吉森 慎之介   Writer : 柳瀬 武彦

 

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