【インタビュー】自然、旅、健康好きを仕事にする| 医療開発師・相澤篤

適切な運動や適度な食事。いま、「健康」を意識した生活を取り入れているひとたちが、世の中にはどれだけいるだろうか。お話を伺ったのは、医療研修や、ネイチャーガイドの事業を手掛ける会社の社長でありながら、登山のプロでもある相澤篤さん。アウトドア(登山と旅)とインドア(医療)の両方に関わってきた相澤さんのこれまでと、「健康」に対する思いを聞いた。

アウトドア(登山)とインドア(医療) 共通するのは、健康であること。

―さっそくですが、現在の仕事に至った経緯や、登山との出会いを教えて下さい。

相澤篤さん(以下、相澤) 生まれは宮城県の田舎のほうで、小さいころから身近に自然がありました。登山に目覚めたのは15歳でしたね。もともと山がで好きでした。

でも、まわりには高い山がありませんでした。だから大きい山への憧れもあって。当時は登山家がだした本をたくさん読んでいましたね。なかには8000メートルの山をのぼったフランスの登山家の話もあり、雪山にも興味がありました。

それから大学の入学をきっかけに上京したのですが、「高い山に登りたい」という気持ちをずっと抱えていました。そこでアルバイトのかたわら、「谷川岳」というところの頂上で、2シーズンほど、とある山小屋の管理人を任せてもらいました。雲の間からのぼってくる朝日なんかは、最高でしたね。

※谷川岳……新潟と群馬の県境にある三国山脈の山。日本百名山のひとつ。

―登山に興味をもったきっかけは、本や住んでいた地域に影響をうけて?

相澤 そうですね。本を読んだこともありましたが、知人に雪山にも連れて行ってもらったこともあって。そういう機会があるうちに、どんどん興味がわいてしまって。

20歳になるころ、知人からヒマラヤの登頂に参加しないかと誘われて、はじめてヒマラヤ山脈に行きました。結局、登頂は失敗したんですけどね。ほかにも海外の山に挑戦して、「登山」というものにのめりこんでいきました。

ですが、日本に帰ってくるころにはまわりは就職していて、焦りました。ひょんなことから製薬会社に就職することになって、そこでつらいと思うこともあったんですけど、大好きな山登りを続けながら、勤めていました。

―山登りに関する仕事につこうとは思わなかったんですか?

相澤 とにかくまわりが仕事しているのが羨ましくて、いち早く仕事を見つけるのが最優先でした。山登りに関する仕事も探そうと思ったんですが、なかなか見つからず。

仕事を続けながら、「日本登攀クラブ」(日本の登山を牽引してきたクラブ、社会人の岩登り集団)の会員になって、仲間と活動していました。山登り、岩登りのエキスパートがあつまったようなクラブで。いまもOBではあるんですが、台湾の山にも遊びに行く予定です。

―当時はそのクラブで、どんな活動を?

相澤 僕は未踏峰のルートを登りたくて、とにかく活動していました。誰も登っていないルートが、まだまだたくさんあった時代だったので。「未踏峰」というのが、好奇心をかきたてられて、とても魅力的でした。

一時期、山登りから離れていたこともあって。サラリーマンとして忙しい日々が続いたり、結婚して家族ももつようになって、時間が取れなくなったり。でも、健康な体ではいたいと思っていたので、少ない時間のなかでラグビーや、クロスカントリーをやっていました。日本山岳耐久マラソン(1000メートルほどの山々を、70キロの工程で走る過酷なレース)というのもあって、参加していましたね。

―運動がお好きなんですね!

相澤 はい。健康な体を維持しようと勤めていました。

仕事も辛くはあったけど、いま思えば良い仕事でした。骨粗しょう症(骨がもろくなり、折れてしまうような病気)の治療剤の開発に関われたり。まだ市場も発達していないなかで、日本で初めて、本格的な治療剤がだせたのが僕らの会社で。成果が日の目をみて、ひとの健康に関われたことがとてもうれしかったです。

―現代人は不摂生と言われいて、不健康な人も多いと思うんです。相澤さんのようなライフスタイルは理想ですよね。

相澤 基本的なことをおさえながら、運動をしたほうがいいと思います。ラグビーをやっていたとさきほど答えましたが、実際にハードな運動で、腰を壊したこともあって。

街歩きでも、たとえば僕がいままでやってきたようなハードな山登りをさせるつもりはありません。僕と同じような年代のかたでも、安全に楽しめるようなルートでガイドをしようと思っています。ガイドの資格は持っていますが、あまり山岳ガイドとか、登山ガイドとかって名乗りたくないんですよね。指導員としてガイドの教育をしていることもありますが、街歩きの旅ではやっぱり、「みんなで健康になろう」ということをテーマにしていますので。

タフな旅と、美しい自然

―去年、マウンテンバイクで旅をしたと聞きましたが、そこのエピソードなども教えてください。

相澤 ペルーの太平洋岸側から、山脈を二つ超えて、アマゾン側の源流までのぼっていきました。その旅の途中で、やっぱり山にも登りたくなって(笑)ついでに6000メートルの山にものぼってきました。

―ものすごい「ついで」の用事ですね(笑)プロフィールを見ると、旅のなかでは動植物も観察してきたとか。

相澤 印象に残っているのは、「ホワイトネック」というコンドルが見られたことですね。以前にも一人旅で行ったことのある地域だったんですが、そのときは見られなくて、それがずっと心残りでした。去年、マウンテンバイクの旅でようやく「ホワイトネック」を見ることができて、感動しました。

ひとりでなら、困難な場所にも行くことができるので、そういう貴重なチャンスにもめぐりあえます。「健康」をテーマした山歩きのガイドをしているのも楽しいですが、やっぱり、この年でも若いときのように冒険もしたくて。

―いままで登山をされてきたなかで、これは苦労した、難しかったという経験はありますか?

相澤 日本では谷川岳というのは、難しい登山のひとつですね。やばいというような経験はいくつかありましたが、そういうとき、僕は口笛を吹くんですよね。自分を落ち着かせるためというか。苦労や難しいというのも、登山の「楽しみ」のなかのひとつでもあるので、あまり苦痛だと感じるようなことはなかったですね。

雪崩が起こりやすい場所などは、それでも怖いですよね。足元から起こる表層雪崩(古い積雪面に降り積もった新雪が滑り落ちる)というのが特に怖くて。最近は気候変動の影響もあって、世界中のきれいな山でも雪崩が多く起こっていたりとか。そういう場面になると、さすがに怖い。

―そうした恐怖心よりも、やはり旅や自然の楽しさが勝るんですね。

相澤 アフガニスタンにバーミヤンという谷があるんですよ。岩壁に仏像が掘ってあったりと、穏やかで神秘的な場所なんです。タリバンによっていまは破壊されてしまって残念なのですが、二度と見られない光景に出会えるというのも、楽しみのひとつですよね。

アフガニスタンにはほかにもバンディアミールという湖があって。砂漠の真ん中にこつぜんと現れてきれいな湖なんですけど、そこもいまは治安も悪く、なかなか行けない。

生きているうちに、もう一度だけ、バンディアミール湖には行ってみたいですね。

―映像や画像としてそういうものを見ることはあっても、実際に行って、肌で感じるという経験は誰しもが持っているものではないので、相澤さんの行動力が羨ましいですよね。

相澤 昔は「アジアハイウェイ」といって、ヨーロッパからインドまでずっとオートバイで旅をしているというような方が、けっこういたんですけどね。

去年も南米に行って、一番北から自転車で走っていたとき、女性一人で旅をしている、というひとにも出会いました。だから、女性のひとの行動力なんて最近はすごいと思います。

―余命がもしも一ヶ月だけとなったら、相澤さんはどんな過ごしかたをされますか?

相澤 誰にでも忘れられない風景があると思うんですよ。僕にもあって、だから未知の旅に向かうというよりは、その風景をもう一度、見に行くと思います。

最後はそこで風を感じながら、眠るように。とかかな(笑)。

「アウトドア好きでもあり、インドアでもある」

―相澤さんの会社の事業では、「アウトドアとインドアを橋渡しする健康支援」をテーマにしているということで、こういうことは、医療と登山の両方を経験してきた相澤さんにしかできないことですよね。

相澤 そうですね。やっているのは、僕だけかもしれません。骨粗しょう症に限らず、もっと身近でもいい、さまざまな病を抱えたかたの健康支援に関われたらと思います。アウトドア(運動)とインドア(医療)の面で。

―仕事におけるモチベーションについても教えてください。

相澤 やっぱり、趣味の一部を仕事にできているので、登山ガイドを仕事にしつつ、自分の行きたい場所にもいけるかもしれないという期待があるところですね(笑)。山登りを若いころはひとりでやってきたんですけど、そこでの経験を活かしてひとに役立てるようなことをしたいと思って、この仕事を始めました。

現在は、視覚に障害をかかえたかたの登山ガイドもやらせていただいています。視覚に障害をかかえたかただと、事情もあってなかなか普通の登山ツアーにも参加できないので、それなら僕がやろうと。

―最後になりますが、今後の相澤さんの目標を教えて下さい。

相澤 まだまだ旅をしたい場所がたくさんあるので、行きたいですね。自分が健康でいられる限り、思い描いた風景に出会えるような旅がしたいです。

見たい風景を思い描く。それを見るためには旅に行く。旅に行くためには、体力を衰えさせず、健康でいる。このサイクルを大事にしています。

この歳になって、残りの時間も少なくなりました。旅の計画はたくさんあって、だからそれを一つひとつ実現していくことが目標ですね。

この記事を読んだあなたへ

tabica
ainiでは、「この体験が、旅になる。」をコンセプトに、農業体験やものづくり体験、街歩き体験ができる着地型観光を提供しています。「人と人を繋げる」という点に特化した、よりローカルな暮らしを体験できるような企画内容となっていますので、日常ではちょっと味わえない体験に参加してみませんか?
詳細はこちら

ainiホスト募集中 あなたの好きなことを待っている人がいる ホスト募集ページへ

カテゴリー

Follow us!

YouTube
Instagram
メニュー